生まれてからこれまで、一度たりともタバコというものを口にしたことがない。
別に中学時代に教師から吹き込まれた「タバコ吸ったら次はシンナー吸うようになって、その次は覚醒剤に手を出して人間終わる」を未だに真に受けているわけでもないとは思うが、というかあんなこと言ってた割に職員室ってやたら煙たかったような。生徒は持ち込み禁止のお菓子とかだって平気で食べてたし。
まぁ、タバコについては、単に機会と興味がなかっただけである。
全く興味が無かったかと言えば嘘にはなる。小説やエッセイなんかの中で、小道具として出てくるタバコがすごく格好良く思えたりすることもある。でも、やっぱり手元に250円あるなら、口の中苦くして灰にしてしまうより、ハーゲンダッツのミニカップでも食べてた方がよっぽどいいやと思う。
世の中、嫌煙だの分煙だの言って、喫煙者には肩身が狭いという話をよく見聞きするような気がする。しかし、実際に街中で見かける喫煙者は肩身の狭さなど微塵も見せず、大手を振って堂々としたものだ。振っている手の片側には火の付いたタバコを挟んでいるわけだが。
実際のところ、タバコを吸っている人間には近づきたくない。見るのも嫌だ。タバコ吸った後に染み付いている臭いも嫌い。と、そんな場面でついついしかめっ面をしている自分に気が付いて、己の矮小さにうんざりもしてみたりする。
通勤時の駅前での歩行喫煙。これは屋外であるし、副流煙だの臭いだの言ってみてもたかだか知れている。要は、人の多いところで火の付いたものを振り回されるという状態に腹が立っているわけだ。灰だって飛んでくることがあるし、なるべく近づかないようにしたいが、狭い歩道に人が多いと避けようがないことも多い。たまに胸の前にタバコをきっちりホールドした状態で歩行喫煙している人を見かける。これは人がさほど多くなければ許してやってもいいかと思うが、私が許そうが許さなかろうが、関係無しに朝の煙は立ち上る。
駅のホームの喫煙。喫煙コーナーの人だかり。異臭漂うその空間の横はなるべく早足で通り抜けるに限る。
喫煙コーナーから離れて、煙を立てている人が一人二人三人。近寄らなければ、別に私に何ら悪影響を及ぼすわけでもなし、別に私が腹を立てる必要など何もないのだが、それでも引っ掛かるのは、喫煙行為そのものではなく、「ホームでは終日禁煙(喫煙コーナー除く)」という存在するルールに違反していることに対してなのだろうと思う。ガラガラに空いた女性専用車両の座席におっさんが座っているのを見かけたときと同様のものだ。電車内で携帯禁止と言われなければ、別にペースメーカを装着しているわけでもない私が、隣の席でメール打ちに熱中している学生に腹を立てることもなかっただろうにと。
就業中。喫煙所から帰ってきたオジサンが、席の傍を通る。タバコ吸い立ての臭いがする。場合によっては、「ちょっとこれ教えて」と、やって来る。
ずっと、この臭いが嫌で嫌でしょうがなかった。私のコーヒー入れる休憩とトイレ休憩を合わせたよりも頻繁だし。
ちょっと考え方を変えて、この臭いがしたら、一度顔を上げて深呼吸をしようと思った。一瞬だけ休憩する合図にしようと決めた。そうしたら、オジサンの喫煙所帰りの臭いがそんなに気にならなくなった。
仕事帰りに、買った本でも読もうとファーストフードに寄る。
ここの店は、禁煙コーナーがないので、周りがタバコを吸っていない席を見定めて着席。
隣で本を読んでいたOLっぽい人がしばらくして出て行った後、買い物帰りらしきおばさんがどっかり座る。
カチカチという嫌な音。案の定、煙がこちらに流れてきた。
わざとらしく咳き込んでみたり、パタパタと手を振ってみたりもするが、おばさんはお香のように灰皿の上に火の付いたタバコを燻らせたまま、何やら本を読んでいる。仕方なく予定の半分も読んでない本を鞄にしまって、冷えたコーヒーを飲み干して店を出た。別に、ここでタバコを吸うことは問題のある行為ではない。
やはり、私は寛大な人間にはなれそうにもない。
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